リフィル処方箋って何?
リフィル処方箋で薬剤師は大変になる?
僕はカナダでの薬剤師経験を通じて、リフィル処方箋を理解できたよ!
リフィル処方せんに不安に思っている薬剤師の方もいるかと思います。
この記事では、リフィル処方箋の概要や薬剤師への影響、そして、日本にリフィル処方箋は導入できるか、について考えてみたいと思います。
結論です。
まとめ
- リフィル処方箋は、医師の負担を軽減し、患者の利便性を向上するコンセプト
- リフィル処方箋を正しく導入できれば、処方箋入力や監査の手間を省けるので、薬剤師の業務量も減らせる。
一方、間違えれば、大変にもなる。 - 「リフィル処方箋をもらう場所」は、日本は同じ薬局でもらい、カナダは好きな薬局でもらえる。
- 「処方箋の管理」は、日本が患者、カナダは薬局が責任をもって行う。患者が予定通りに来ないとき、日本は薬局が状況を確認、カナダは連絡しない
- 日本でのリフィル処方箋はあまり普及せず、限定的な効果に終わると思う(Shimpeiの一意見)
それでは早速、リフィル処方箋について書いていきます。
リフィル処方箋とは?
リフィル処方箋って何?
リフィルとは= Re(もう一度) +Fill (満たす) =おかわり、ってことだよ!
つまり、処方せんの薬がもう一度もらえるシステムのことだね。
リフィルとは、医師の診察を受けることなく、処方箋の薬がもう一度もらえるシステムのことを言います。
そのメリットとしては、
- 医師の負担が減る
- 患者の利便性が高まる
- 医療費が抑制できる
などがあります。
下の図を見てください。
上が従来の方法、下がリフィル処方箋を導入した場合です。
(1回で90日分を処方すると仮定)
従来の方法では、90日ごとに病院に受診する必要があります。
患者も診察のたびに長時間を待ち、医師も診察に時間を取られることになります。1年間で合計4回の受診が必要になります。
一方、リフィル処方箋を導入すれば、1年に1回だけの病院受診になります。
これにより医師の負担が減り、患者の利便性が高まります。
結果として、
- 従来の方法: 病院受診が4回
- リフィル処方箋の方法: 病院受診が1回
理論的には、医師の負担が1/4になり、1人の医師が診れる患者数が4倍になる。医師という希少な医療資源をより効率的に使うことができる。
ということが実現できます。
薬剤師の負担が増えるのでは?
リフィル処方箋を導入したら薬剤師は大変になるんじゃないの?
そんなことないよ!実は薬剤師の業務量も減るはずだよ!
SNS上でも「薬剤師の業務量が増えるのでは?」ということが議論されていました。
しかし実際は、リフィル処方箋が正しく導入されれば、薬剤師の業務量は減ります。
その理由は、リフィル処方箋が導入されることで、処方箋の調剤や監査業務の多くがリフィル調剤になるからです。
例えば、先程の図を使って考えてみましょう。
患者が薬局に来る頻度は従来と変わらないものの、4回のうち3回がリフィル調剤になります。
1回目は新規処方箋を調剤しますが、2−4回目はリフィルを調剤するだけのお仕事になります。
そうなる、業務全体のうちリフィルが6-7割、新規処方箋が3-4割くらいのイメージになります。 科目によりバラツキはありますが、慢性疾患であればリフィルの方が確実に多くなります。
リフィルの調剤や監査は、患者のプロファイルを選んで、ボタンをちょちょっと押すだけで完成です。処方せん入力や入力監査は1回目でしっかりされているのでしなくてOK。あとは調剤と監査だけの簡単なお仕事になります。
結果として、
- 処方箋入力や処方箋内容チェック(疑義照会など) は4回→1回
ということになり、薬局側の業務も実は楽になります。
日本のリフィル処方箋の運用まとめ (2022.1.31現在)
リフィル処方箋を導入すればメリットばかりだね!
絶対に導入した方がいいんじゃないかな?
リフィル処方箋のコンセプトは素晴らしいし、多くの国で導入に成功しているよ。
ただ日本と海外では、他の医療制度が異なるので導入が上手くいくとは限らないんだ。
まず、日本のリフィル処方箋の運用方法について下にまとめます。
- 保険医が「処方箋のリフィル可」にチェックをいれる (上限3回まで)
- 向精神薬や麻薬などはリフィルできない
- 基本は同じ薬局でリフィルをもらう
- 処方箋調剤が終わったら患者に処方箋原本を返す
- リフィル調剤を拒否して受診勧奨を行う
- 薬がなくなる頃に患者に連絡をする
1-2の運用はカナダと同じですが、3−6の運用が異なってきます。
1.保険医が「処方箋のリフィル可」にチェックをいれる (上限3回まで)
2. 向精神薬や麻薬などはリフィルできない
の運用については、カナダとほぼ同様です。
リフィルはあくまで医師の許可が必要ですし、麻薬や向精神薬についても薬物依存の問題が発生するので、簡単に薬がもらえるようにするのは良くないと思います。
リフィル処方箋の運用の違い (日本 VS カナダ)
さてカナダのリフィル処方箋の運用を見ている立場から、日本とカナダで異なるポイントを中心に解説したいと思います。
この異なるポイントが、リフィル処方箋が成功するかどうかに関わってくると思います。
同じ薬局でリフィルをもらう VS 好きな薬局でリフィルをもらう
日本の運用だと、同じ薬局でリフィルをもらうよう説明する、と記載があります。
僕はこのシステムは微妙だなと思っています。
なぜなら、患者には薬局を選ぶ権利があってもいいと思うからです。
ここをカナダはどうしているかというと、自由にリフィルを移動させるトランスファーというシステムを導入しています。
ツイッターでも書いたんですが、
リフィルの運用でセットで欲しいのは、「トランスファー」というシステムです。
これは、リフィルを薬局間で自由に移動させるシステムです。
1回目は家の近くのA薬局、2回目は職場近くのB薬局でもらいたいって事は結構あるんですよね。
— カナダ薬剤師しんぺい@薬剤師の可能性を広げたい (@shinshinskysky) January 28, 2022
このトランスファーは普通に行われていて、薬局のスタッフは無料で対応してくれます。
薬局側からすると仕事が増えるんですが、そこまで頻度は多くないのであまり気にはならないですね。
カナダの運用だと、好きな薬局で自由に薬をもらえるという利便性を実現できているので、ここはカナダの運用の方がいいかなと思います。
リフィル処方箋を患者が管理する VS 薬局が管理する
日本では調剤が終わったら患者に処方箋を返す、という運用になっています。
1回目の調剤が終わったときに、調剤日や薬剤師名を記載し、患者さんに処方箋を返すんですね。そして、2回目や3回目のリフィルのときに、その処方箋を持って薬局に行く、という流れです。
この運用は患者と処方箋が同時に移動するので、「処方箋の場所がわかりやすい」というメリットがあります。一方、患者が処方箋を無くすデメリットはありますね。
カナダでは、最初の薬局が処方箋を管理する運用になっています。最初に処方箋を受け付けた薬局がそのまま処方箋を預かります。もし他の薬局でリフィルを受け取りたいときは、薬局同士で「情報だけ」を共有し、処方箋は移動させません。過去に調剤した処方日や処方内容、残りのリフィルの数などの情報をFAXで送ります。(=トランスファー) メリットは「処方箋を無くすリスクがない」ってことですね。デメリットとしては、「どこの薬局に処方箋やリフィルがあるか忘れてしまう」ってことがあります。
いずれの方法にしろ、「残りのリフィルの数」について結構、質問は来るので覚悟はしておいた方がいいですねー。
リフィル調剤を拒否して受診勧奨を行う
多くの薬剤師が、「リフィル拒否すべきか判断が難しい」「拒否すべきときに渡してしまったら?」と不安になっているのはここだと思います。
僕は個人的に「心配しなくても大丈夫」だと思っています。
理由として、そもそも慢性期でリフィルを拒否することはほぼないからです。
リフィル処方箋を出す = 疾患が上手くコントロールされている、ということであり、そこから急変するリスクは非常に少ないと思います。
実際、カナダでのリフィル調剤は、薬剤師はろくに服薬確認や指導もせず、ただテクニシャンが薬を患者に渡すだけの業務になっています。一応、作った薬を薬剤師がチェックしますが、ほとんど見ていないに等しいです。(よく考えるとヤバいよなと思います..)
新規処方箋をチェックするとき、みなさん疑義照会をやると思うんですけど、そっちの方がよっぽど難易度が高いと思います。リフィルについては、その時から状態が極端に変わってなければ、すべて調剤してOKというスタンスでいいと僕は思います。
はじめてリフィル調剤をしたときは不安だったよ!
でもよくよく考えたら、新規処方箋の方がハードルが高いってことに気づいたんだ。
一方、「リフィル調剤を拒否して受診勧奨を行う」を本気でやろうと思えば、薬剤師の専門性(プロフェッショナル)を生かせる業務になります。患者の状態を聞き出すコミュニケーション力、病態を正しく把握する知識に、リフィルするかどうかを決める判断力が問われます。このリフィル調剤は薬剤師のやりがいと専門性を生かせる業務になります。
薬がなくなる頃に患者に連絡をする VS 患者に連絡しない
薬がなくなる頃に患者に連絡をするという日本の運用はちょっとシンドイですかね。
全員の薬を把握するのは大変だし、患者の都合もあるわけで、電話するのも億劫ですよね。
そもそも「薬を継続して飲むかどうか」も、患者の権利であり、「どの薬局でもらうか」も患者の権利だと思うんですよね。
とはいえ、患者に連絡することで薬剤師の業務量が増えるのでやりたくないなと個人的に思います。
カナダでは患者への連絡もしません。また連絡をしなくてもいい方法がいくつかあります。
下記がリフィルの注文方法です。
- 電話注文 (高齢者に多い)
- 薬局に直接来て注文 (買い物ついでの人が多い)
- アプリ (自分で注文)
- リフィルスケジュールサービス (自分で設定)
- 留守電にいれる
薬局側としては仕事量を減らしたいので、3-4 あたりを勧める薬局が多いですね。
3だと薬局にデータが飛んでくるので、暇な時間にさばけばいいし、4だと調剤予定日に自動でデータが入ってくるので楽です。
とはいえ、薬局に来るのは高齢者が多いので、主流は1-2あたりなんですけどね。
リフィル処方箋の注文方法が色々とあると、患者も薬剤師も楽だよ。
カナダのリフィル処方箋の運用まとめ
下記にカナダのリフィル運用を少しまとめました。
- 処方箋は90日処方 x 3回リフィル= 1 year が多い (受診は1年に1回)
- 処方せん原本は最初の薬局で預かる
- リフィルの期限= 処方せん原本が期限切れるとリフィルも切れる
- トランスファーで他薬局に移動できる
- 新規処方せんもリフィル処方せんも技術料は同じである。
- 予定よりも早い/遅いリフィルについて: 早すぎるとその場で保険が通らなくてはじかれる(7-10日前後はOK), 遅いのはOK
- リフィル=テクニシャンが薬だけ渡しているケースが多い。
→薬剤師が判断しなくてはいけなくて責任が重い?→ カナダだと会話せずに事務が投薬しているのが現状 - リフィルの受付方法について: 1) 電話 (高齢者に多い) 2)直接薬局で注文 3) アプリでリフィル 4) 自動リフィルスケジュールサービス 5) 留守電にいれる
- 患者にリマインド(告知)はしない (これを薬局側がやるのはシンドイと思う)
- リフィルを拒否するケースはほとんどない。(慢性疾患なので)
- 向精神薬/ 麻薬は除外
リフィル処方箋は日本にうまく導入できるか?-海外薬剤師による見解
結論です。結構、厳しいと思います。
さっきも言ったとおり、日本と海外ではその背景も異なっていて、今の日本にいれてもリフィル処方箋の効果は限定的に終わると思います。多くの患者を抱えている一部の総合病院や大学病院にとっては良いと思います。
その一番の理由は、多くの開業医にとってリフィル処方箋で売上が下がるからです。
日本の一般的なクリニックは出来高払い制度になっていて、提供した医療のサービス量に基づいてお金がもらえます。シンプルにいえば、治療をすればするほど稼げてしまうのも事実です。
さて。ここにリフィル処方箋を導入するとどうなるか?
リフィルを導入すると受診頻度が1/4とかになり、恐らく売上がかなり下がります。
リフィル処方箋を1枚出す VS 従来とおり処方箋を4枚出す、を比較すると、初診料や再診料の兼ね合いもあり、従来の方法の方が売上が上がるからだと思います。
僕自身がクリニックの開業医なら、リフィルは絶対に採用しませんし、医師会が反対するのも納得です。
また、起こりうるパターンとして、リフィル処方箋を「90日処方→ 30日処方+2リフィル」という形で使う場合です。
まあこれは正直いうと最悪ですね。これは医師の負担は減っていないし、ただ薬剤師と患者の負担が増えているだけです。
3か月に1度のアセスメントで良かった状態に対して、無駄な医療資源を投入することになっているので。これがリフィルを正しく導入できていない失敗例です。
どうすればリフィル処方箋が上手くいくか
医科や調剤の単価をあげて、少ない患者数でも売上を出せる状態にする、ということが必要かなと思います。
日本の医療は、薄利多売型になっており、多くの患者をさばくことで利益を確保しています。慢性疾患の一般的な処方日数が30日くらいだったと記憶しています。(もし間違っていたら教えて) これは処方日数を短くしないと売上が確保できないからです。
糖尿病や高血圧などの慢性疾患は、安定していれば3か月に一度のアセスメントでも本当は十分ですよね。なので、1回の病院診察の単価をあげて、処方日数を伸ばせるような環境をつくれば、自然とリフィル処方箋は増えてくるはずです。
処方箋単価を上げるためには、医療費の確保、医師数やクリニックの数の要因もあるので急には無理ですが、診療報酬全体を見直すことができるなら可能かもしれません。
まとめ
最後にまとめです。
少しでもみなさんの参考になれば幸いです。