今回の記事の対象
- 海外の薬剤師が勉強している内容に興味がある
- 海外には行けないが、日本にいながら海外と同じレベルで勉強したい
- 単純に薬剤師としてスキルアップしたい
これらの思いを持つ方も多いかと思いますので、
今回は、私がカナダに行って身につけた6つの薬剤師の能力をシェアしたいと思います。
こちらの内容はファーマトリビューン誌でも同様に取り上げて頂いていますので、良かったら読んでみてください。記事はコチラ。https://ptweb.jp/article/2017/170703002183/
6つの薬剤師の能力とは何か?
- セルフケアをサポートする能力
- NESAに基づいた処方鑑査
- 充実した服薬指導
- 薬物療法のMonitoringができること
- プロフェッショナルとして、倫理的に正しい判断もできる
- EBMに基づいた思考・行動
表現が難しくて良くわからないとか、イメージが沸かないという方もいると思いますので、もう少し簡単に書いていきます。
6つの能力をもう少し說明すると?
1. セルフケアをサポートする能力
セルフケアをサポートする能力とは、薬剤師が、軽い症状を訴えている患者に上手く手助けをしてあげる能力です。
病院に行くほどではないけれど、患者さんから
『少し、頭痛がするんだけど、何か頭痛薬ないですか?』とか、
『病院に行く時間ないんだけど、すぐ風邪に効く薬ないですか?』とか、
日本でも良くOTC (市販薬)を勧めるシチュエーションが良くありますよね。
この時、なんとなく自分の経験や感覚だけに従って、勧めていませんか。
カナダでは、しっかりとした情報に基づいて、
①薬は何も必要無いと伝え、安心させる OR/AND
②OTC や非薬物療法などを推奨する OR/AND
③病院受診を推奨する
ができるように教えられています。
2. NESAに基づいた処方鑑査
処方鑑査は薬剤師なら全員がやることですけど、始めは難しいですよね。
どうしても最初は、ただ薬の錠数があっていることを確認するだけ、になりがちです。
しかし、みなさんご存知の通り、処方鑑査は、『薬学的に正しいか?』っていうこともチェックしなくてはいけません。
そこで、この『薬学的に正しいか』を判断するために、この『NESA』のフレームワークを使うと非常に便利です。
『NESA(ニーサ)』とは、Necessary, Effectiveness, Safety and Adherence の略で、必要性、有効性、安全性、アドヒアランスのことです。
薬剤師がこれらを1つずつ正しく評価できれば、患者は、必要な薬だけを効果的かつ安全に継続して服用することができます。
3.充実した服薬指導
充実した服薬指導とは、薬剤師がどの薬剤についても充実した情報を患者に提供することができることです。
服薬指導には、說明すべき項目(用法用量、効果や副作用など)が幾つかあります。(詳細は別記事)
特にカナダの教育では、『薬の作用時間』や『非薬物療法』についても說明することが重要であると教えています。
4. 薬物療法のモニタリングができること
モニタリングとは、薬剤の効果と副作用を継続的に評価することです。
つまり、薬物療法が上手くいっているかどうかを、
1)薬の効果が出ているか、 2) 副作用が出ていないか、
によって確認する作業になります。
5. プロフェッショナルとして、倫理的に正しい判断もできる
『倫理的に正しい判断』とは、どういうことでしょうか。
『倫理的』という言葉は、「道徳的」だとか「人として守るべき」という意味合いがあります。
例えば、
- 多忙すぎて、十分に服薬指導ができなかった
- 患者が薬を飲まなくなるので、薬の副作用を伝えなかった
- 患者が風邪薬を欲しいといったので、あまり聴き取りせずにOTCを勧めた
- 毎回クレームのある患者に対し、服薬指導をあまりしなかった
- 疑義照会をすると医師が怒ってくるので、疑義に思ったが、そのまま調剤した
これらは非常に良くあるシチュエーションですが、 倫理的にふさわしくないと思われる点が各々に含まれています。
倫理的な判断ができれば、難しいシチュエーションでも良い解決策がとれます。
6. EBMに基づいた思考・行動
EBMは Evidence Based Medicineの略ですが、これは、科学的根拠に基いた上で、患者の状態と価値観に基づいた医療を行うことです。
その重要性については、色々な書籍でずっと言われてきておりますので、私のブログでは割愛します。
6つの能力が重要である理由
1.セルフケアをサポートする能力
セルフケアを上手くサポートできないと、
①軽症なのにわざわざ病院に行かせてしまう、
②重症なのにOTCを勧めてしまう
が起こる可能性があります。
①は医師の負担の増加、医療費の増加につながります。②は、患者の生命や病気の予後に関わってきます。
2.NESAに基づいた処方鑑査
NESAの4つの項目が評価できないと、漏れなく処方を薬学的に鑑査することができません。
例えば、膀胱炎に対してレボフロキサシンが出ていて、妥当な薬剤の選択だと判断し、調剤したとします。
しかし、その『用量』が妥当なのかを確認し忘れてしまいました。
この場合、NのNecessaryは確認できていたのですが、EのEffectiveやSのSafetyは見逃してしまったので、高用量での副作用か、低用量での効果不十分というリスクが生じるわけです。
つまり、NESAに基づいた処方鑑査をすることで、薬学的な処方鑑査を漏れなくできることになるのです、
3.充実した服薬指導
服薬指導は、どの薬剤師がどの薬剤に実施しても、患者がほぼ同等の情報を得られるべきだと思います。
これが上手くできないと、
- 患者が薬の事を理解していない、
- 間違った飲み方をしてしまう、
- 勝手にやめてしまう、
などが起こる可能性があります。
つまり、これは、『薬物療法の失敗』につながってしまいます。
カナダでは、国家試験の1つにOSCEが含まれており、大学などで服薬指導の方法についてしっかり勉強する機会があります。
したがって、どの薬剤師も充実した服薬指導ができるシステムができています。
4. 薬物療法のモニタリングができること
モニタリングができないと、薬の効果や副作用を評価ができません。
つまり、飲んでいる薬の効果がしっかり出ているのか、それとも副作用が出ているのか、よくわからずに患者に薬を飲ませてしまっているのです。
薬が処方されたのは、『薬の効果』があるからであって、これが無いのに飲む必要はないですよね。また、『薬の副作用』が沢山出てしまったら、元も子もないので、これもまた飲む必要はないですよね。
そういった意味で、このモニタリングは非常に重要です。
5. プロフェッショナルとして、倫理的に正しい判断もできる
倫理的な問題は、薬剤師の業務で非常に頻繁に起こります。
私もカナダで勉強するまで、倫理について全く意識することはありませんでした。
しかし、今は、倫理的に難しいシチュエーションにおいて、『どうすべきか』を倫理的に正しく判断を下すことができるようになりました。
海外では、『それらの判断が薬剤師の個人個人で違って良いのか?』『プロフェッショナルであるならば、どの薬剤師も等しく倫理的な判断ができるべきだ』との意見から、倫理の教育にも力が入れられています。
6. EBMに基づいた思考・行動
エビデンスに基づいた情報を伝えることができないと、物事の決定が感覚的、経験的にされてしまいます。
医療者が治療方針について考えるとき、裏付けとなる論文をしっかり読んでいることは重要です。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回の記事では、私がカナダに行って身につけた6つの能力と、それらが重要な理由について書きました。
次回以降の記事では、それを1つずつ說明していこうと思っています。