みなさん、こんにちは。
今回は、カナダの保険調剤システムの3本柱のうち、その一つであるLCAプログラムについて書きます。
LCAプログラム概要と他2つのシステムについては、ファーマトリビューン誌さまのWeb記事も参照にしてください。カナダの保険調剤のシステム 〜持続可能な医療制度のための3本柱〜
また、私が日本で痛い思いをした、アレンドロン酸での事例についても紹介します。
LCAプラグラムって何?
LCA プログラムとは、Low Cost Alternative Program の略で、
「同成分で最も安価な薬剤」の使用を推進させるプログラムです。
この、 「同成分で最も安価な薬剤 」というのは、
先発品も後発品もすべて含め、また、製薬会社A社やB社の製品も含め、
市場にある全ての製品の中で最も安価な製品、のことです。
つまり、このLCAプログラムとは、最も安価な製品の値段のみ保険でカバーする、というシステムです。
カナダでも、患者が先発品または後発品を自由に選べますが、最も安価な薬剤以外を選んだ場合、その差額分を患者が負担することになります。
わかりやすいように、具体例を表にまとめました。 下記の表を見てください。
薬価がそれぞれ、先発品が1000円、後発品Aが500円、後発品Bが550円です。
LCAプログラムでは、最も安価な製品の値段までのみ保険でカバーされるので、
最も安価な製品である、後発品Aの500円が保険で支払われます。
そして、それを越える額は全額患者負担になります。
これが、
LCAプログラムが、誰も先発品を選ばなくなるシステム
と、私が考えている理由です。
(注意: ただし、最も安価な製品に含まれる添加物などにアレルギーがあった場合、先発品でも全額カバーされる可能性があります。)
次は実際に、カナダのブリティッシュコロンビア州(BC州)のフォーミュラリーを見てみましょう。
カナダ(BC州)のフォーミュラリーを見てみる!
みなさん、フォーミュラリーって聞いたことありますか?
フォーミュラリーとは、「最も有効で経済的な医薬品を使うための指針」のことですが、
今回は、 国が勧める医薬品リスト、ぐらいに思っていただければよいです。
そして、このフォーミュラリーに、全ての薬剤の保険適応額が記載してあります。
例えば、一番上の「Fosamax フォサマックス 70mg」を見てみてください。
保険適応額は、1剤あたり最大2.2695ドルであり、
これは4段目の「Apo-alendronate アポ社のアレンドロン酸70mg」の薬価と同額になっています。
LCAプログラムのメリット・デメリット
メリット1: 医療費の抑制
一番の理由はこれだと思います。
患者が高価な先発品を選択しても、国の負担額は一律のため、医療費を抑制することができます。
メリット2: 薬局の在庫管理が楽
この制度のために、ほとんどの患者が最も安価な薬剤を選択します。
結果として、この薬剤を中心に在庫すればいいので、薬局の在庫管理が簡単になります。
デメリット: 患者の負担額が増える
最も安価な薬剤を選ばなかった場合、患者負担が発生します。
今回、メリット・デメリットをあげましたが、
同成分の薬剤の効果や副作用は同等であると考えられ、
患者に対してのデメリットは少ないプログラムだと思います。
日本で私が違和感を強く感じた、アレンドロン酸での事例
私が日本の調剤薬局で働いているとき、ずっと違和感を感じていたことがありました。
骨粗鬆症の薬剤である『ボナロン』ですが、新しく『ボナロンゼリー』という、新しい剤形が追加されました。
これに伴い、製薬会社のMRさんが、クリニックの医師に積極的に売り込みをしていたのを覚えています。
そして、時間とともに、これまで『アレンドロン酸の後発品』を服用していた患者の薬が、『ボナロンゼリー』に次々と切り替わっていきました。
もちろん、薬剤師として嚥下障害がないかなどアドヒアランスの有無を確認しましたが、特に『ボナロンゼリー』に変える必要性は見受けられませんでした。
なぜこのような事が起こってしまっているのか。
そこで、 日本にカナダのLCAプログラムを導入したら、どれだけ医療費を抑えられるか?
を考えてみることにしました。
日本に、Low Cost Alternative Program を導入したらどうなるか?
①アレンドロン酸錠35mgが週1回服用, 4週間分、処方された場合を想定
各国の技術料などは考慮せず、単純に薬価のみを考慮。
②薬価は日本の薬価を使用することとする
- アレンドロン酸錠35mg(後発品A社): 200円/錠
- アレンドロン酸錠35mg(後発品B社): 270円/錠
- ボナロン錠35mg: 530円/錠
- ボナロンゼリー35mg: 1040円/包
(2018年時点での薬価)
③ 上記1,2 の条件で計算してみる
原則患者が3割負担、として計算しました。下記の表を見てください。
- 日本の保険調剤システム の場合 (原則3割負担)
最も安価なボナロン錠を選んだ場合でも、240円の自己負担額が生じています。
最も高価なボナロンゼリーと、最も安価なA社のアレンドロン酸錠との自己負担額の差は1008円です。
つまり、患者が1008円を負担することでボナロンゼリーに切り替えることができますが、
国の負担割合が、2912円と高額になっています。
- カナダの保険調剤システムの場合 ( Low Cost Alternative Program)
一方でカナダのLCAプログラムの元では、最も安価なボナロン錠を選んだ場合、自己負担はありません!
また、保険適応額は800円と常に同額ですので、最も高価なボナロンゼリーを選ぶと、自己負担額は3360円も発生することになります。
したがって、もし日本にLCAプログラムを導入できれば、医師がボナロンゼリーを無駄に処方することは無くなるでしょう。
患者は、余計な自己負担をしたいとは思わないでしょうからね。
まとめ
- LCAプログラム(Low Cost Alternative Program)とは、最も安価な製品の値段までのみ保険でカバーされるシステム
- LCAプログラムは、ジェネリック医薬品を強く推奨し、国の医療費を抑えることができる
- 患者が自己負担をすれば、先発品を選ぶことは可能である