薬剤師として働いていて、「なぜ薬学に関係ない業務が多いんだろう」「薬剤師はもっと専門的な仕事だと思っていた」と感じたことはありませんか? その原因は、薬剤師の本質をどう考えているかにあります。今回の記事は、「薬剤師の本質について考える」について書いていきたいと思います。
結論です。
本質って何?
そもそも本質とは何でしょうか?
本質とは、最も大事な根本の性質のことをいいます。
研究室の先生に、「お前は研究の本質を何にもわかっとらん!」とよく怒られたよ!
例えば、写真にある「車」の本質について考えてみましょう!
「車」の本質は何だと思いますか?
.....
「人や物を運ぶこと」です。
人によっては「飾るもの」「自分のステータスを高めるもの」かもしれませんが、一般的な車の本質は「運ぶこと」になると思います。
車は比較的シンプルでわかりやすい例です。
次に、「スマホ」の本質はどうでしょうか?
スマホは電話もできる、アプリもある、SNSでつながる、ググれる、ゲーム...のように、人によって用途や機能があり凄く難しいです。
スマホの「本質」は、「人と連絡をとること(つながること)」だと思います。
人によっては腑に落ちないかもしれませんが、これはスマホに複数の機能や用途があるからです。
で、何が言いたいかというと、薬剤師はまさにスマホ化しているということです。
今、日本の薬剤師の仕事が多岐にわたることで、「薬剤師の本質」が非常にわかりにくくなっています。その結果、僕たち薬剤師が特に何を力をいれるべきか、どの仕事が大事なのかを理解できなくなっているんですね。
薬剤師の本質とは?
さて、次に「薬剤師の本質」について考えてみましょう。
薬剤師が実際に行っている業務を下に並べてみました。
どれが薬剤師の本質でしょうか?
答えは、2「薬の内容を確認する」です。
薬の内容を確認する= 処方箋内容を薬学的に問題ないか (用法用量や相互作用など) をチェックするということです。
薬剤師は能力が高いから何でもこなせてしまうんですが、僕は、この2「薬の内容を確認する」に薬剤師の時間をすべて投資した方がいいと思うんですね。
なぜなら、この仕事は薬剤師の薬学的な知識が必要な仕事だからです。
この質問を薬学生にしたところ、3の「薬を患者に届ける」という答えが多かったので、少し考えてみましょう。
薬剤師の本質が「薬を運ぶこと」になると、薬をしっかりと届けること、が一番大事な仕事になります。隣のドクターから依頼があって運ぶ、介護施設からたのまれて運ぶ、患者さんのお家へ運ぶ。でもこれってよく考えると、郵便配達と同じ役割を果たしていませんか?
あくまでこれは僕の一意見で、僕は「薬剤師= 薬物療法のスペシャリスト」として考えているので、薬学知識を最大限生かせる仕事を、薬剤師の本質として考えたいと思っています。
カナダの薬剤師が考えている本質とは?
ここで、カナダの薬剤師たちが考えている「薬剤師の本質」について紹介したいと思います。
これはカナダの薬剤師たちが「薬剤師の本質」について学会で話した事を翻訳したものです。
薬剤師の本質は、薬学的な問題を発見、解決そして予防することである。それ以外の仕事は薬剤師以外でもできる。
カナダの薬剤師は、薬学的な問題を解決することに全時間を投資している。カジノで1点だけにオールインする一点張りのイメージですね。
逆に言えば、薬学的な問題以外はすべてあきらめているということです。
彼らの軸は「薬学的」か「非薬学的」かです。
例えば、下記の業務はすべて「非薬学的」な業務です。
- 処方箋の調剤 (錠剤/水剤/軟膏/ 一包化)
- 処方箋の監査 (薬が処方せん通りに作られているかどうか- 正しさ)
- 薬の発注
- DO処方など説明不要の投薬業務
- 電話応対や疑義照会
これらはすべてテクニシャンにまかせて、自分たちの専門性を徹底的に深めました。
そして薬物療法の責任は薬剤師にある、というレベルになるまで専門性を高めることに成功しています。彼らは自分たちの職域を「垂直方向」に伸ばしたとも言えると思います。
一方、日本は「水平方向」に広げていっているように感じます。
かかりつけ薬剤師、地域支援型の体制、在宅医療へと広く広く薬剤師の職域を広げていっています。
広げることのメリットは、薬剤師の活動の場が広がり、他の職種との境界に近づくことです。医師や看護師、介護士そして医療事務さんたちですね。
デメリットとしては専門性を失うことです。広げるほど仕事量は増え、自分の専門性を生かすための時間は減ります。専門性は薄まる方向に行くということです。
薬剤師が「施設」や「患者の自宅」まで行くようになって、仕事が増えたと思うんだよね。看護師さんからの仕事依頼も増えたよね。
この薬剤師の2つの方向性である 「垂直方向」か「水平方向」は、基本どちらかしか選べないように感じます。専門的に行くほど水平展開はしづらいし、活躍の場を広げれば垂直には行きづらいからです。
このように、「僕たちが薬剤師の本質をどう考えているか」は薬剤師の方向性を大きく決め、コンパスのように導いてくれるものになります。
日本の薬剤師は変わるべきか?
僕個人の意見として、日本の薬剤師が今から専門性を急速に高めるのは難しいし、その必要もないのでは?と思います。
なぜなら、一度広げてしまった活動をやめるのは難しいし、実際に今の薬剤師の業務は必要とされているからです。薬の一包化や施設での薬セットを通じて、介護士や看護師の業務を軽減しており、とても必要だと思います。
これはある意味、アメリカやカナダのカルチャーなんですが、医師も看護師も専門性に特化させ、それ以外の業務は資格のない人に委託するシステム(Delegation)が進んでいるんですね。日本はみんなで仲良く協力するのがカルチャーだと思うので、海外の真似をせずに今の形のまま有り続けるでいいと思います。
薬剤師の専門性を高めるならどうしたら良いか?
僕の結論は「日本の薬剤師の方向性は変える必要はない」ですが、
ただ、あえて、ここから日本の薬剤師が専門性を深める方向にするのなら、どうしたら良いか考えてみようと思います。
言葉をアップデートしていく
「対人対物」「在宅訪問薬剤管理指導」など、こういう言葉を変えていくということです。
例えば、「対人対物」をずっとキーワードとして取り組んだ結果、薬剤師は「水平方向」に業務を拡大することになりました。
「薬剤師はもっと外に出ないとダメだ!対物から対人に変わっていけ!」
という謎のキャッチフレーズです。
僕はずっと「対人対物ってなんぞや?車の保険屋じゃないしわからん」って思ってました。
僕たちの業務は、昔ながらの言葉に引っ張られつづける側面があるのではないかと思います。で、僕はこういう古い言葉を抹殺して、新しい言葉にアップデートした方がいいと思うんですね。
他の例をあげると、「服薬指導」という言葉は、カナダでは「カウンセリング」という言葉が代わりに使われています。なぜなら、薬剤師が、食事や運動などの生活指導、風邪や怪我などの健康相談など「服薬以外の相談」が受け持っているからです。「服薬指導」という言葉が薬剤師を「薬の説明」だけに縛り付けているのはあると思います。
「在宅訪問薬剤管理指導」という言葉も作らなくてもいいと思うんですよね。診療報酬で算定するために、次々に語彙が増えていくんですが、その業務の「本質」を考えると、患者宅に行って服薬指導するだけの業務、といえるような気がします。
仕事を細分化と委託をおこなう
一番はこれだと思います。これなら少しずつ今日からできます。
つまり、1つ1つの仕事を「薬学的」か「非薬学的」かで分けて、「非薬学的」な業務をどんどん他の人に任せよう、ということです。
例えば、薬剤師の在宅業務でも、
- 薬局から患者宅まで運転する
- 出発(到着)前に患者さんに連絡する
- カレンダーに薬をセットする
- 薬の服薬指導をする
- 薬の会計をする
- 頼まれたオムツや入れ歯柔軟剤を売る
- 患者宅から薬局まで運転する
- 薬歴記載をする
- 在宅レポートを書く
- 在宅レポートをFAXする
- 次回の在宅日チェック/残薬などの管理
という感じに分けることができて、青色部分はすべて事務さんにお願いできる「非薬学的業務」だと思います。
これをもっと広げていって、
- 薬剤師にしかできない仕事に時間を使う
- 電話応対、保険レセ関係、調剤や一包化の準備の基本はすべて事務さんにお願いする
- 医師や看護師さんに依頼された雑用仕事を断る
ってことができれば、かなり専門性が高まってくると思います。
ただこれ、一筋縄にはいかないと思うし、他の職種との人間関係やら...で難しいと思うので、自分が専門性に特化することで彼らにどんなメリットがあるかを提示する必要があります。そうしないと、ただの仕事の押しつけになります。(よく見たことある風景だと思うのですが..)
あと、この仕事の委託は、「薬剤師も事務も同じ人間だし仕事も平等にしよう」という思想を持っている薬局だと導入は難しいので、他職種や周りからの薬剤師業務への理解が前提条件になります。
とはいえ、あまりこれをやりすぎると、薬剤師の仕事がなくなり薬剤師過剰になるのでオススメはしていません。(そもそも僕は変える必要はないと思っていますので)
まとめ
最後に、結論です。
少しはみなさんの参考になれば、幸いです!